沈みかけた家業に戻った四代目の決断
大阪府富田林市に本社を構える昭和製線株式会社は、ジャンパー線や鉛フリーはんだメッキ銅線などを手がける創業100年超の老舗メーカーです。現在、舵取りを担うのは四代目社長の廣瀬康輔氏。もともと「電線の事業が今後大きく伸びるとは思えない」と感じ、家業を継ぐことは既定路線ではありませんでした。しかし、社会人として働く中で「自分が食べてこられたのは昭和製線のおかげ」と気づき、工場長の退職タイミングも重なって帰社を決断します。
2004年の入社当時、会社は出荷量減・利益減・クレーム増というトリプルパンチ。さらに設備は老朽化し、顧客の品質要求の変化にも追いつけていませんでした。社長いわく、まさに「沈みかけた船」からのスタートでした。
品質不良の「真因」を追い続けた10年
立て直しの起点は、徹底した原因追究にありました。昭和製線の主力は、銅線の表面にスズやはんだをコーティングした製品です。クレームの多くは、表面のムラや密着不良といった一見バラバラな現象でしたが、調査を進めるうちに共通点が見えてきました。
代表的なのが「前処理洗浄」の問題です。コーティング前に銅線表面を洗う工程で、ごくわずかな汚れが残ると、その上にきれいなメッキは乗りません。現場では長年の“慣れ”で「これくらいなら大丈夫」と判断されていた条件が、顧客の品質レベルの変化に合わなくなっていたのです。
そこで同社は、・クレーム発生ごとにロット・条件・担当者を徹底的に調査・洗浄液の状態、温度、速度などの条件をデータで記録・原因が不明なものは「分かるまで止めない」方針を徹底といった地道な取り組みを積み上げていきました。「原因が分かれば、対策はその裏返しで決まる」という考え方で、安易に「作業者の注意不足」で片付けないスタンスが、徐々にクレーム減少と信頼回復につながりました。
展示会で見えた「日本製への信頼」と海外市場
2014年、廣瀬氏が社長に就任した年。経営は依然として厳しく、受注確保のために東京ビッグサイトの展示会へ出展します。特別な新製品を用意したわけではなく、「うちではこんな銅線加工をしています」と現物を並べただけのブースでした。
ところが、台湾・香港・東南アジアの来場者から「この線は自国で買えるのか」「日本製が欲しい」という声が相次ぎます。「なぜわざわざ日本製を?」という問いに対して返ってきたのは、「自国の製品は信用できない。高スペック品には日本の材料を使いたい」という答えでした。
これをきっかけにネット販売や代理店を通じて東南アジア向け輸出を開始。現地価格を調べると、日本で作った同社製品のほうがむしろ競争力があるケースも多く、この10年で安定した輸出ビジネスへと育ちました。
小さな製造業だからこそ任される裁量
昭和製線の強みは、表面コーティング技術に加え、「小さな組織だからこそ、とりあえずやってみる」が実行できる点にあります。太陽光パネルのアップサイクル事業も、その一例です。
FIT終了に伴う大量廃棄問題に着目し、メガソーラーから出たパネルをホワイトボードやテーブル、卓球台、そして大阪・関西万博会場のベンチ「そらいす」へと転用。半年間の万博を「実験の場」として、設置後もSNSの声をもとに改良を続けています。
若手社員にとってのポイントは、こうした新しい取り組みにも、早い段階から関われる可能性があることです。工程改善のアイデア出しから、試作品の検証、展示会での説明役まで、年次に関係なく任される範囲が広いのは、中小企業ならではと言えます。
若手としてどう関わるか──現場での具体的なアクション
昭和製線が重視するのは「人間力」、すなわち「相手を思いやる言動で周囲に好影響を与える力」です。若手でも経営改善に参加するために、次のような関わり方が期待されます。
- 作業手順を「なぜこの順番なのか」と問い直し、改善案を提案する
- 不具合や違和感を「自分のせいかも」と隠さず、早期に共有する
- 顧客目線で「これで本当に喜ばれるか」を基準に判断する
- 3S活動や改善活動に主体的に参加し、結果を数字と事実で振り返る
応募前にできる実践的なチェックポイント
昭和製線のような製造業への応募を検討する際、次のような点を工場見学や選考で確認すると、入社後のギャップを減らせます。
工場見学で見ておきたいポイント
- 現場に掲示された品質データや改善ボードが「更新されているか」
- 洗浄・コーティングなど重要工程で、標準作業が明文化されているか
- 従業員同士の声かけが多く、質問しやすい雰囲気か
社長に聞いてみたい質問例
- 最近1年で一番大きかった品質トラブルと、その対策は何でしたか
- 若手社員が改善を提案し、実際に採用された事例はありますか
- 本業(銅線事業)と新規事業のバランスを、今後どうしていきたいですか
沈みかけた船を立て直し、新しい海へ漕ぎ出そうとしている昭和製線。そのリアルな姿に触れることは、製造業で「自分ごととして改善に関わる」キャリアを描くうえで、大きなヒントになるはずです。