「電線は伸びない」って本当か
少子高齢化、国内生産の縮小、価格競争――銅線・はんだメッキを含む電線業界は、「成熟しきったオワコン産業」と見られがちです。実際、日本国内の電線需要は長期的には横ばい〜微減傾向にあり、大型インフラ案件も頭打ちです。受注減や値下げ要請に苦しみ、老朽設備と品質クレームに悩む企業も少なくありません。
大阪府富田林市の昭和製線株式会社も、かつては同じ課題に直面していました。出荷量・利益は減少し、顧客の要求品質は上がる一方で、社内体制が追いつかない。いわば「沈みかけた船」からのスタートでした。
それでも市場が広がる領域がある
一方で、グローバルと脱炭素という視点に立つと、まったく違う景色が見えてきます。
- 東南アジア・インドを中心に、エアコンや家電の普及はこれから本格化
- EV(電気自動車)・充電インフラ・データセンターなど、銅を大量に使う成長分野が拡大
- 省エネ家電や高効率電源では、損失を減らすために高品質な導体・はんだが不可欠
昭和製線は2014年から東南アジア向け銅線輸出を開始しました。きっかけは東京の展示会での一言。「自国製は信用できない、日本製がほしい」。現地価格と比較しても日本製が選ばれ、以降10年にわたり安定受注につながっています。「国内需要は頭打ちでも、信頼される高品質な素材は海外でまだ伸びる」という典型的な事例です。
脱炭素と鉛フリーが生む新しい仕事
もうひとつの潮流が、脱炭素と有害物質規制です。鉛フリーはんだメッキ銅線は、環境規制対応の標準品として位置づけられ、エレクトロニクス全般で重要性が増しています。昭和製線も早くから鉛フリーはんだメッキ銅線を主力製品とし、基板用ジャンパー線や電子部品リード線を供給してきました。
さらに同社は、使用済み太陽光パネルの大量廃棄問題に着目。メガソーラーから撤去されたパネルを、ホワイトボード兼発電パネル、テーブル、卓球台、そして大阪・関西万博に設置された「そらいす」ベンチなどへアップサイクルする実証を進めています。「銅線メーカーが再エネのアップサイクル事業に乗り出す」という事実は、成熟業界の中にも新規事業の余地があることを示しています。
成熟業界で新規事業に関わるためのスキルとマインド
では、こうした変化の中で、どんな人材が活躍できるのでしょうか。昭和製線の取り組みから見えるポイントは、以下の通りです。
- 原因を徹底的に掘る力:品質問題の真因を工程レベルまで遡って特定する分析力・粘り強さ
- 「とりあえずやってみる」行動力:小さな展示会出展やネット販売など、完璧でなくても一歩踏み出す姿勢
- 顧客視点:海外の現場ニーズや「日本製への信頼」をくみ取るヒアリング力
- 人間力:周囲を巻き込み、現場と経営をつなぐコミュニケーション
同社が重視する「人間力」とは、相手を思いやり、周囲に好影響を与える力。技術や知識だけでなく、現場で信頼される人であることが、新しい挑戦の土台になっています。
入社1〜3年目からできる具体的な行動プラン
若手のうちから挑戦の場を広げるために、次のようなステップが有効です。
1. 勉強すべきキーワード
- 製造・品質:メッキ、伸線、より線、3S活動、QC七つ道具
- 環境・規制:RoHS、REACH、鉛フリー、カーボンニュートラル、LCA
- 市場トレンド:EV、データセンター、省エネ家電、再エネ・太陽光 FIT/FIP
2. 社内での動き方
- クレームや不良の事例を積極的に共有・分析し、原因と対策を自分の言葉で整理する
- 現場・営業・技術の会話を聞きに行き、「お客様の困りごと」をメモする
- 小さな改善テーマ(洗浄工程の見直し、帳票の簡素化など)を提案してやり切る
- 展示会や工場見学のレポートをまとめ、上司や同僚と知見を共有する
こうした積み重ねが、「品質の分かる人」「新しいことを任せやすい人」として評価される近道です。
視点ひとつで見え方は変わる。
銅線・はんだメッキ業界は、国内だけを見れば確かに成長産業とは言えません。しかし、海外需要や脱炭素の潮流、環境規制への対応、再エネ設備のアップサイクルなど、視野を広げれば新しいテーマはいくつもあります。
昭和製線が示すのは、「成熟した既存事業を安定させつつ、その延長線上で新しい価値をつくる」というキャリアのかたちです。オワコンかどうかを決めるのは、業界ではなく、そこで何を学び、どの課題に挑むかという、一人ひとりの選択だと言えるでしょう。